| なぜ高校野球なのか 熱球の原点@ |
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@ クールな闘志/勉強と両立させる
甲子園への夢をかけた夏の全国高校野球選手権予選は、いよいよあさって23日が組合せ抽選会、来月15日が"開幕" − 球児たちは炎天下、汗と泥にまみれて熱球を追い、意気込みは日増しに盛り上がっている。今年の参加予定校は東地区104校、西地区101校の計205校。史上最高のマンモス大会となるが、果たして球児たちの"こころのスコアブック"には、この夏、どんな記録が残されるのか−。進出めざましい都立勢の中で、東地区のシード校に選ばれた新宿高校野球部に焦点を合わせて、高校野球の原点と白球がいろどる青春の姿を追ってみた。初回は、本社のアンケート調査が浮き彫りにした球児たちの"甲子園感"から紹介しよう。
新宿高校の野球部員は40人で、うち6人が女子のマネージャー。アンケート調査は、今月初め、実際に野球をやる34人の選手を対象に質問用紙を配布、うち30人(3年生13人、2年生6人、1年生11人)が回答を寄せた。質問は野球歴、勉学との関係、甲子園感など20項目にわたり、それぞれ回答を記入してもらった。
最初に球歴を聞くと、野球を始めた年齢こそさまざまだが、ほとんどが「小学生の時から」。中学時代も野球部で活躍した球児が多かったが、「本格的な野球は高校から始めた」と6人が答えている。入部の動機は「野球が好きだから」が大半。「練習を見ていて部員がいかにもハツラツとしていたので、『これこそ若さだ』と思って・・・」「自分の体をきたえるために、一番面白そうだったから」などと言っている。
それでも「野球をやめようと思ったことは」23人が「ある」「何度もある」と答えている。その理由として、練習内容への不満などをあげていたが、「やめたい」という思いを何度も乗り越えて、それぞれたくましい球児に成長するらしい。
ところで、卒業後も野球を続けるかという質問には「続けたい」と答えたのは12人。「わからない」「進学した大学による」「なりゆきしだい」と決めかねているのが14人。そんな中で「続けない」と決めているのは4人だけだった。ただ、1年生たちの間では「続けたい」という声が目立った反面、3年生たちは「わからない」という答えがほとんどだった。
野球をしているとどんなプラスの面があるか。人格形成などに役立つのかと聞いたら、21人が「役立つ」。具体例として「精神面を鍛えることができ、シンの強い人間になれる」など、忍耐力や精神力の養成に役立つと挙げているのが8人でトップ。次いで「チームワークが身につき、仲間と協力し合えるようになる」が6人となっている。
その反面、「野球と人格形成は関係ないと思う」という否定派も3人いた。
「将来、どんな人間になりたいか」では、「幅広い人間」「他人に迷惑をかけない人間」「心の大きな人間」という意見が多かった。
同行は都立高でも有数の名門進学校だが、勉強はどうしているのか。
練習がない日の自宅学習時間は、3年生が平均4時間。1,2年生では2-3時間だったが、練習日では3年生は約2時間に半減、なかには「全然しない」もチラホラ。それが、1年生になると「1時間程度」か「ほとんどできない」という。
そこでズバリ「野球と勉強は両立するか」。15人が答えを寄せて、「両立は難しい」が4人、「まだ、うまくいかない・・・」が3人。これに対して「両立は自分の意思しだい」「なんとか両立できる」と答えた"両立派"は8人で、ほとんどが3年生だった。「毎日練習しているわけではないので、自分の意思で何とか両立できる」(3年生)と、自信ものぞかせ、野球部員としての経験を積み重ねていくにつれ、"両立の道"が開けてくるようだ。
高校野球は年々盛んになり、今や甲子園は夏の"国民的行事"という人もいるが、球児たちはどう見ているのか。
「素朴さが薄れ、どうも派手になりすぎ、過熱気味だ」と19人が認め、「そうは思わない」の8人を大きく上回った。無回答も3人いたが、やはり"派手"と受け止めている部員が多いようだ。だが「派手でもよい」と8人が積極的に肯定、「それも時代の流れ」「関心が高いので仕方がない」と4人が答えるなど現状肯定派が12人。「派手なのは周囲が騒ぎ過ぎているため」などといまの大会のあり方に否定的な部員も7人いたが、その否定派も「周囲が騒ぐだけでわれわれは昔の高校球児と変わらないと思う」「世論は世論。プレーしているわれわれは自分のペースで野球をすればよい」など、クールな一面も。
その球児たちも、一部のいわゆる"野球学校"にはかなり手厳しい。「野球に重点を置いているように見える学校があるが、これについてどう思うか」との質問に、14人が「野球を食い物にしている」「高校で野球人間を育てるのはおかしい」「学校経営上はプラスなのだろうが、教育者としては不適格」などと否定する。とくに1,2年生が批判的で、10人を占めた。中には「学校が有名になることに利用されている選手が哀れ」「勝つことを義務付けられている部員が気の毒」という"同情"論さえもあった。その一方で、「勉学が第一だが、そういう方針の学校があっても仕方がない」「それはそれでよい」「プロや六大学の野球部に行くならそれでよい」と。野球学校を10人が"認知"している。その10人のうち7人を3年生が占めており、1,2年生に批判的な意見が多かったのと対照的だ。残りの6人は「無関心。どうとも思わない」「勝手にさせておけばよい」と割り切っている。
さて、父母たちは、野球に打ち込むわが子をどう見ているのだろう。
勉学と両立しないからと「反対している」のが2人で、「何も言われない」「無関心」「分らない」という"中立派"が12人。残りの16人は"賛成派"だった。そのうち6人は「高校では運動をするべきであり、それが野球であろうと何であろうと・・・」「勉強と両立できるなら」などの条件付きという。「根気、忍耐力を身につけ、心身ともに健康な生徒になるからと野球をすすめてくれた。そして鍛えた体力で勉強にも力を入れ、希望する大学へ進学するように、と言っています」と書いた1年生もいる。
このアンケート調査結果からも、高校球児たちの"平均像"は「率直で健全。しかもクールなガンバリ屋が多い」といえまいか。
次回からはその実像を追う。
新宿高校
大正11年4月、府立第六中として開校。昭和23年の学制改革で都立第六新制高校に。同25年に都立新宿高となる。卒業生の大半が大学に進学し、同36年には東大に102人が合格した。卒業生も林健太郎元東大学長、国語学者の金田一京助氏ら多士済々。現校長は榎村順雄(のぶたか)氏。生徒数1101人(男727人、女374人)。渋谷区千駄ヶ谷6の2の1。
同校野球部
昭和23年に発足。同年の春の大会でいきなり準優勝(決勝戦で早実に0−9で完敗)した。その後は華々しい活躍もなかったが、今年4月の春の都大会で、一気にベスト8へ進出、準々決勝で早実に1−2で惜敗している(早実は大会で優勝)。この善戦でがぜん注目されるようになった。エースの左腕高山毅彦君(3年)を擁した現チームは、同校としては「史上最強チーム」との下馬評が高い。東大出のプロ野球選手として話題を呼んだ井出駿氏(現中日コーチ)は同校OB。
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| (昭和54年(1979年)6月21日付 読売新聞 都民版 より) |
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