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野球部奮戦記

なぜ高校野球なのか 熱球の原点A
A 五振り 伝統の一打入魂/限られた練習時間、より効果的に

「五振り野球」。新宿高野球部の伝統の一つである。レギュラーも補欠も、打撃練習でバットを振るのは「一人5回」だけと決められているのだ。空振りも、チップも全て1回。だから、1球たりともおろそかには出来ない。同校OBの話によると、これは都立高らしい"生活のチエ"から生まれた。
新宿駅から3分、明治通りと新宿御苑に囲まれたグラウンドはホームベースからライトまで98メートル、センターまで105メートル、レフトまで102メートルと広い。同じ都立でも、港工業のようにテニスコートほどの校舎の屋上で練習を積む野球部に比べれば、ずっと恵まれている。しかし、このグラウンドも、野球部専用とはいかない。陸上競技、サッカー、ハンドボールなど、他の運動部も、ここを使うからだ。夜になれば、定時制の生徒も繰る。
このため練習時間は、毎週火・水・金曜日の午後3時から2時間と、各部との話し合いで決められている。それも、フリーバッティングや外野へのシートノックなど、グラウンドを全面使用できるのはわずか1時間足らずだ。五振りは、こんな制約を克服するために編み出した苦肉のアイデアであった。
同校OBで監督を務める岡本任史君(20)(明大2年)によれば「だらだらと打つより、ストライクの球を五つ、満身の力を込めて打つ。その方が集中力を鍛え、ずっと効果があるんですよ」。一球を投げ、打ち、捕る。その練習は「いつも試合と同じ真剣勝負」とも。
来月15日からの本番を前に、チームは土、日曜日、他校との練習試合で、目下最後の調整中だ。先日の都立杉並高との一戦では、代打に出た控えの選手が、粘りに粘って四球で出塁する場面もあった。
「ベンチに入れる18人、それに入れない部員も全員一致して試合に臨む。この全員参加の野球を支えているのも、実は五振り野球なんです」(岡本監督)。
この春からのチーム打率は、練習試合、公式戦を含め16試合で2割8部2厘。四死球も1試合平均7個を数え、好球必打の精神が、上位、下位むらのない打線を形成している。
「元気出せー」「声がねえぞオ―」。超高層ビルを仰ぐ都心のグラウンド。雑踏のどよめきを背に、ナインはファイト満々、バットを振り、白球を追う。都大会での目標も「勝ち負けより、全力を出し切っての力いっぱいの野球」だ。
(昭和54年(1979年)6月22日付 読売新聞 都民版 より)


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